句集『蝦夷富士へ』 許勢元貞(こせ・もとさだ)
発行日:2023年11月22日
発行所:角川書店
『蝦夷富士へ』十二句
蝦夷富士の襞深くせり大枯野
降りしきる雪石狩平野(いしかり)を養へる
雄冬より望む積丹木の根明く
鍋破(なべこわし)酒は生酛の日向燗
乾鮭を嚙むや襟裳の日と風と
海獣の魂の叫ぶよオホーツク真冬
先祖(さきつおや)いづくより来ぬ露の道
縄文の呪文よオショロコマの斑は
根の国の底から吹雪生まるるよ
八月来湯浴みの妻の神隠し
跳人(はねと)の鈴一つひとつにをどる霊
諾へず海を見てをる海鼠かな
(宮坂静生選)